要素:BL
-
-
-
二、柳に風 洋風建築の柳の自宅は、私の生家と比べると格段に広い。また家具や調度品はすべて洋式に揃えられていたので、それらに慣れるまでにはなかなかの時間を要したものだ。中でもベッドは、少し触れるだ…
-
-
-
一、柳緑花紅 私の故郷は、古くから薬効の強い温泉が湧く湯治場だ。十以上ある宿には、どこも一年を通して湯治客が逗留しており、二ヶ所ある外湯は、常にひとで賑わっていた。 かくいう、私が生まれた宇都…
-
-
-
告白のための序文 細かい木目が並ぶ艶のない文机に広げた優しい白地の上に、薄褐色の四角が規則的に連なっている。 握った万年筆の、刃物のような鋭さをもつその先端を、新品のインキ壺にとぷんと浸す。首…
-
-
-
それは、幸福な幻想だった。僅かに開いたドアのすき間からこぼれ出した、愛しい紫煙が我が身を包む、身勝手で愚かなまぼろし。 たたん、たたん。錆びた金属製の手すりを雨粒が叩く。打ちっぱなしコンクリートの…
-
-
-
「おじさん、ちょっと書いて欲しいものがあるんだけど」 朝からひとりで出かけていた彼は、夕方帰宅するなり、リビングのソファで寛ぐ私の前に数枚の紙を差し出してきた。 「いいけど……これ、何?」 「転入届…
-
-
-
ふと目を奪われたその鮮やかな色を、私は『黄緑』としか表現できない。 立ち止まってそれをじっと見ていたら、彼が気付いて「綺麗なライムグリーンだね」と言った。こんな些細なことでさえ、ふたりの間に確かな…
-
-
-
『連休が取れたから一緒にどこか行こうか』 『じゃあ、東京いこ。服欲しいから』 『いいよ。上野とか、有楽町とか? それとも銀座かな?』 『えっ、そこ百貨店しかないじゃん』 『えっ、上京して買い物するなら…
-
-
-
自身の唇に指で触れる癖がついた。真木がそのことに気が付いたのは最近になってからだが、恐らく二か月ほど前から始まったことだろうとは、当人もすぐに予想がついた。丁度、タバコを吸わなくなった頃だ。 大学…
-
-
-
ただ、そばにいて欲しいと思った。海田の胸にそんな想いが湧いたのは、大学の入学式当日。キャンパス内でビラ配りをしていた真木に、海田は思わず声をかけていた。 愛情に飢えていたわけではない。両親にはそれ…
-
-
-
この場所には、いつだって陽が当たらない。真木が訪れる度、ここは四階建てコンクリート造りの校舎が作り出す、長い影で覆い隠されていた。 歩道の脇には芝生が植えられていて、五月ということで花壇にはちらほ…