掃き溜めに蜜

 品のない水音とくぐもった声が、個室内に響く。
「ん、ン、――っ」
 蓋を閉じた便器の上に座らせられた少年の口腔内に押し入ってきたペニスが、えらの張った先端部で舌根ぜっこんを容赦なく擦り上げる。意思に反して行われる抽送により、口呼吸の自由は奪われた。不足する酸素を求めるように、少年の胸腔が膨れるが、困惑の合間に思い出したように行う鼻からの呼吸は、彼の肺を満たすに至らない。軽い酸欠に陥っているのか、頭がくらくらとし、目の前が白黒と明滅している。
 少年の口腔を犯しているのは、ピアスの男だ。
 そして同時に右手では、グレーの髪の男のペニスを慰めることを強要されていた。
 手を休めればすぐに頬を軽く叩かれ、行為の継続を促されるものだから、少年は手のひらで包み込んだペニスを必死に擦り上げた。自慰を覚えたての子供のような、拙く単調な摩擦ではあったが、上目で様子を窺えば、男は嗜虐心を滲ませながら笑い、少年の頭を撫でるように触れた。これは征服欲を満たすための行為だ。男が少年を単なる性欲処理の道具としか見ていないのは明白である。ただそれでも、触れられた部分から、恐怖とは別種の震えが沸き起こるのを感じていた。
 手の動作に集中すると、口に収めたペニスへの奉仕がどうしてもおざなりになる。手を細かく動かし、次は頭ごと口を前後させる。それを何度も繰り返すうちに、右手は先走りで濡れ、ぬちぬちと粘度の高い摩擦音を発し始めていた。舌の上にも、ぬるりとした塩味を感じる。
 自らを騙し、虐げているはずの男たちが、他でもない自分が与えるぎこちない刺激で、性的な興奮を覚えている。その事実を認識すると、少年は堪らなく胸が切なくなった。
「――あッ」
 上衣をはだけられ、夜気に晒されて粟立つ肌は、酷く敏感だ。背後から伸びてきた手に、不意に胸を撫でられ、少年は思わずペニスから口を離して小さく喘いだ。
 触れてきたのは、カーディガンの男だった。すべらかで長い指が、少年の肌の上を散歩でもするかのように、するりと移動していく。
「離れてるよ、口、ホラ咥えて」
「ぐ……、っんん、ふ、ッ――」
 ピアスの男に鼻を摘ままれる。反射的に大きく開いた口にペニスを突き入れられ、嘔吐感が込みあげる。しかし吐くことなどできるはずもなく、喉奥が過度の刺激に収縮した。
「あー……喉締まった」
「ッ、ぅ、んぶ、う……」
 さらに奥へと侵入してきたペニスに押し出されるように、少年の目からぼろぼろと涙が零れる。
「こっちも」
 グレーの髪の男に促され、何とか手を動かす。
 ピアスの男は、少年の頭を片手で押さえ込み、自分勝手に腰を振って咽喉を蹂躙していた。
「――、ンっ」
 身体が強ばる。下半身を、スラックスの上から撫でる気配があった。視線を落とせば、カーディガンの男が、少年の股間を布越しに弄んでいた。男は片手で器用にベルトを外していく。そうしてスラックスが下着ごと少しばかり下げられ、縮み込んだペニスを握られた。
「ぅん、ん」
 首を振って、拒否することもできない。
「……こわい?」
 訊かれたところで、と思う。抵抗する術を持たない少年は、ただきつく目を閉じて、訪れるであろう感覚に備えた。
「ふ、ン――ッ!」
 自身の手よりも大きなそれで、揉みしだくようにペニスを扱かれ、少年の身体は大きく震えた。それは想像以上の快感だった。
 少年とて、年相応に、持て余した性の欲求を処理することぐらいはある。そして、それが快楽を伴うことも、身をもって知っている。だが、男に与えられたのは、とてもその比にならないものだった。
 甘美な痺れが背筋を走り、頭の中が一瞬にして真っ白に塗りつぶされる。快感を快感とも捉えられないほどに奪われる思考能力。きつく瞑っていたはずの目は、反射によって見開かれたが、しかしその視界も滲みきってしまっている。
 受け止めきれない強い性感を、自由の利かない身体を捩ることで、何とか逃がそうとする。
 しかし男たちの動きは止まらない。今や口だけでなく、手のひらまでも犯されてしまっている。少年自身のペニスは、長い指に絡めとられてとっくに芯を持ち、熱を蓄え始めていた。
 口腔を犯す男が、強く腰を打ちつけてくる。口内に広がる生臭い塩味。舌はその中に、僅かな苦みを捉え始めていた。
 手のひらで包み込んだペニスの雁首に、指の股を掻くように刺激される。
 望まない形で屹立を促された少年の性の象徴が、期待に戦慄わななき、先端から蜜を溢れさせている。
 おい、と男の声。誰の声か、今の少年には判別できなかった。ただ、それを合図にして、少年の手と口は突然解放された。手淫を施していた腕は落ち、ペニスが抜け出した口の端からは、唾液がどろりと伝い零れていく。一気に肺に空気が満ち、胸が詰まり、咳き込んだ。
 脱力し、後ろに倒れ込んだ身体が、水洗タンクにもたれかかる。
 終わったのか。
 咳と呼吸とを繰り返し、少年はぼうっと痺れたような頭で思考した。
 だが、それもほんのつかの間のことだ。
 カーディガンの男が、少年のスラックスを下着ごと一気に引き下ろした。足先で裾が革靴にかかり、床に脱げ落ちる。上衣は既にはだけられ、下半身に身に着けているのは、紺色のソックスのみとなった。
「――ひッ」
 抗議の声を上げるより早く、未知の感触が少年を襲った。先程扱かれていた性器よりもさらに奥、剥ぎとられた下着に秘されていた後孔に、男の指が触れている。ひくつく窄まりは酷くぬめっていた。そのぬめりが、よもや自身の先走りのせいだと、少年は夢にも思わない。男は黙って、皺をひとつひとつ伸ばすように、丁寧に撫で広げていく。
「楽にして」
 空いた手で両脚を大きく開かせ、さらに少年の表情を間近で窺いながら、男は後孔を押すように弄る。
「や、そんな……ァああっ」
 甘い声。腰が跳ねる。
 カーディガンの男が、目の前にある未成熟な胸の尖りを片方、口に含んだのだ。そのまま吸われ、さらには舌先で転がされ、じわじわと官能が高まっていくのを、少年は感じた。
 先端を刺激されると、背筋がびりびりと痺れる。
 下腹に、疼く熱が蓄積されていく。
 それを意識するなり、全身がかっと熱くなった。
「ッひ、ン」
 胸をねぶっていた舌が、鎖骨をなぞり、次いで首筋を伝う。
「……感じてる? かわいい」
 少年の漏らした嬌声に、男は上目に、ふ、と口元を緩めた。その顔がゆっくりと近づいてきて、おもむろに少年の唇を塞いだ。歯列を割り、男の舌が口侵入してくる。同時に長い指で耳をくじられた。口腔内で繰り広げられる、舌と舌との疑似的なセックス。それによって発せられる淫靡な粘着音が、耳の内で籠もり、鼓膜を震わせた。
「ン、ぁ、ああッ――!」
 舌に意識を向けられている間に、男の指が後孔へと差し入れられる。初めての感覚に、身体が大きく跳ねた。
「ほぐさないと、怪我するから。……少し、我慢して」
 カーディガンの男が、指を動かしながら少年の顔をの覗き込んでくる。
 少年のわきに立ったふたりの男は、自らのペニスを軽く扱きながら、準備の様子をにたにたと見つめていた。
「そーそー、俺ら優しーからさァ。キミも痛いのヤでしょ?」
「あ、あ、ァ、やっ……、ン」
 下卑た視線に思わず顔を逸らすが、しかしどうしても漏れ出る声は止まらない。
 後孔の奥、粘膜のある一点を男の指が掠めるたびに、唇が甘高い声で囀った。これは誰だ、と痺れる頭で思考する。身体と意識の抗えない剥離は、少年を酷く混乱させた。
 それを施している男も、少年の反応に気づいているのだろう、刺激する指を一本ずつ増やしながら、執拗に責め立ててくる。
 三本の指を受け入れた窄まりは、ペニスが零した先走りと腸液のぬめりで、ぐちゅ、ぐぽ、と指の動きに合わせて、品のない水音を立てている。
 指の動きが早くなった。
 内壁を掻くように。
 ぐるりと円を描くように。
 ふ、と男の空いた手が、少年のペニスに触れた。
 それは既に、破裂しそうな程に血液を集中させ、張りつめてしまっている。
「ぁ、あ、――っひ、アあぁああっ!」
 内と外に同時に刺激を与えられ、強烈な感覚に腰が大きく跳ねる。同時に、ペニスから勢いよく精が吐き出され、自らの腹を汚した。
 カーディガンの男が指を抜き、身体を離す。
 少年は便座の上で力なく手足を投げ出し、焦点の定まらない目でぼんやりと視線を泳がせた。その姿を、男たちが舐めるようにじっとりと見下ろしている。
 遠くで鳴る救急車のサイレンを、少年は不明瞭な意識の端で聞いた気がした。

 陶製の水洗タンクが、一定のリズムでカタカタと音を鳴らす。
「あ、ァ――、ん、ふ……ッ」
 便器の前に立たされ、尻だけが高く上がるように、上半身は蓋の閉じた便座の上に押しつけられている。
 個室内を満たすのは、肉体同士がぶつかり合う音と、粘着質な水音。
 丹念に解された少年の後孔には、白濁にまみれたペニスが出入りを繰り返している。少年がそれを体内に受け入れるのは、既に二度目だった。
「あー、ナカ、めっちゃウネる。サイコーじゃん」
 二人目の男が、陶酔した声で口にする。その間も腰の動きが止まることはない。
 直腸内をペニスが前後するたび、張り出した雁首が、少年が既に知ってしまった快楽のスイッチを掠め、嬌声が口をついて出る。もはや壊れた玩具のように、ただ乱暴に揺すぶられるまま、一切の思考をせず、規則的に啼くことしかできなかった。
「やべーだろ? な、奥も突いてみろよ」
 一人目の男が、少年の両肩を掴み、押さえつける。上半身がさらに倒れ、代わりに尻が上がる。上から押し貫くように、二人目の男が深くペニスを挿入した。
 内部で肉壁に行き当たり、それでもなお奥を犯そうとする異物を、誘うように粘膜が蠢く。
「ッぐ――」
 圧迫感に息が詰まった。
「っは、マジかこれ、やべッ」
 男は最奥をめがけて繰り返し腰を振る。一人目の男が体内に放った白濁を、二人目の男のいきりたったペニスが悪戯にかき混ぜる。泡立ったそれが、抽送のたびに、ぶちゅぶちゅと結合部から溢れだす。
「あ、う、うぅ、っふ……、ン、ァああン――ッ!」
 少年のペニスは力を失い、時折ぴくりと震えていた。しかしその先端からは、だらだらと精液を垂れ流し続けている。長時間与え続けられる外的刺激に対し、脳はあらゆる制御の義務を放棄し、代わりに快楽のみを拾い上げることにしたらしい。
「くっそ、めちゃくちゃ吸いついてくるじゃねーか……! ちんこ好きすぎだろっ」
「や、ちが、ぁ、そ……な、こと……ッ」
 興奮のあまりにか、速められる腰の動きに、少年は反射的に否定を漏らした。
「そんなことあるって。才能あるよ。カラダは正直~って、ねェ?」
 へらへらとだらしなく笑いながら言ったのは一人目の男だ。その言葉に、少年は、じん、と脳が痺れるような感覚を覚えた。そして、ぞ、と全身に鳥肌がたつ。
「う、うぅ……あっ、や、も、終わ……てぇ……」
 懇願する少年の最奥が穿たれる。そして粘膜同士のキスが幾度か繰り返された。
「ッ、そうだな、そろそろ出すぞっ、ちんこ狂いのケツ穴に、精子たっぷり出してやるからな……ッ!」
 男の動きが激しくなる。
 淫靡な水音と獣のような荒い息が、少年の耳にやけに大きく響いた。
 チカチカと視界が明滅する。
 迫りくるそれに、抗うことなどできるはずもない。
「や、やだやだ、あっ、あァッ、だめっ、だめぇ、ぁあ、んあアアっ――!」
「っ、く、あー……」
 少年の背が弓なりに反り、全身が軽く痙攣する。それから便器を抱え込むようにその場に脱力した。
 男もほぼ同時に、身体を震わせる。熱いペニスは瞬間、ひと際膨張し、直腸内に何度も精液を放った。
 少年を穿っていたそれはすぐに抜き去られ、後孔が名残惜しそうにゆっくりと閉じていく。物欲しげに、白い涎を零しながら。
「ふは、めちゃめちゃ出てんじゃん。ウケる」
「っせ、お前も結構出してただろ……。っと、あー、トんじまったか?」
 軽く尻を叩かれるが、少年に反応するだけの気力は残っていなかった。
 何も返事をできないでいると、
「あ、おい」
「……俺もする」
「何、急にやる気じゃん」
 腕を引かれ、半ば無理やり半身を起こされた。
「ごめんね、こっち向ける? 顔見てシたい」
「ぅ……?」
 三人目の男の手によって、少年は再び水洗タンクに背を預けるように座らせられる。
 男の指が、まだ完全には閉じきっていない窄まりへと差し入れられた。内部を確認するような動きで内壁をなぞられ、少年は思わず身じろいだ。
「トロトロだ……かわいい、すごくかわいいよ」
「ふ、……ぅン」
 顎を、頬を、男の舌が這い、流れるように少年の唇を塞いだ。同時に、挿入された指が、体内に放たれたふたりの男の精を掻きだしていく。
「気に入っちゃったって?」
 その様子を眺めていた男のひとりが、苦笑交じりに口にした。
「……んなわけ」
 唇を離し、三人目の男がぼそりと呟く。揶揄からかった男が、彼の背を二度叩いた。
「いーって、いーって。お前、そういうの好きだもんな。せっかくだし、ガッツリヤっとけ」
 癖になるかもな。
 その言葉に、三人目の男の目に異様にぎらついた光が宿るのを、少年は確かに見た。
 三人目の男が少年の身体に覆いかぶさり、首筋や胸、二の腕、腹といった、皮膚の薄いところを狙って、強く吸いついてくる。かわいい、かわいい、まるで呪文のように繰り返し呟かれ、頭の中が男の声で溢れかえる。甘い言葉が脳を蕩けさせ、まるで蜜の中にでも浸かっている心地だった。
「あ、また、ナカ……やだぁ……」
 不意に、硬いものが後孔に触れた。既にその感触の正体を嫌というほど知っている少年は、この後に続く行為も、もはや避けようがないことも察していた。しかし、そんな少年が瞳を潤ませて漏らす形骸化した拒絶が、男の欲望にどのように訴えかけるのか。はたして少年はそこまで理解していただろうか。
「だーいじょうぶだって、また気持ちよくなるだけだから。コイツ、キミのこと気に入ってるから優しくしてくれるよ。な?」
 仲間に促され、三人目の男が黙って腰を押し進めてくる。
 つるりとした先端が、白濁で蕩けた窄まりに埋まっていく。
「あ、あ、やァ……入ってきちゃ――」
 ぞう、と背筋を駆け抜けるものがある。それは決して恐怖などではなかった。
「っ、く、……ッ」
 体内に収められた雁首までを、ぬめる肉壁が熱く抱擁する。
 男は息を詰めると、
「ふ、ぁあああアっ――!」
 そのまま一気に根元まで、ペニスを押し込んだ。
 衝撃に少年の視界は激しく明滅し、上半身が仰け反る。唇からは甘ったるい嬌声が零れた。
 勃ちあがった少年のペニスは小刻みに震えながら、少量ではあるが、精液を吐き出している。
「あーあー、入れただけで出ちゃったんだ?」
「もとから淫乱の素質があったんじゃねェ?」
 品のない野次と下卑た笑い声が個室内に響いている。
 しかし少年の頭に、その意味までは届いてこない。
「あ、ぁ、ん、ァ……、ふ、ン……ッ」
 後孔を貫く男のペニスが、浅く弱い部分を的確に刺激する。それが脳を麻痺させ、性感以外の一切の感覚を遮断していた。
「あッ、そこ……っ、だ、めぇ……」
 言葉とは裏腹に、少年の腰が快楽を追って緩く揺れる。
「エッロ……、っは、キミ、もうちんこなしじゃ生きてけないんじゃない? ……あー、たまんね」
 わきに立っていた男のひとりが、デニムの前を寛げて再びペニスを取り出した。それは既に腹につきそうなほどに勃起している。
「俺もまた勃ってきたわ。……はー、くそ、ちんこ痛ェ」
 もうひとりも同じようにペニスを露出させると、絡みつくような視線を少年に向け、自慰を始めた。
「かわいい、かわいい……上手に飲み込むね、偉いね」
 三人目の男は、仲間の様子など気にも留めず、少年の目尻や頬にキスを落とし、髪を撫で、腰をゆるゆると揺する。
「っあ、ぇ、じょ……ず……?」
 甘美な陶酔が滲む瞳で、少年は男を見つめた。
「うん、上手。どこが気持ちいい? 手前の方? それとも奥? 好きなところ擦ってあげる」
 浅いところ、深いところ、順番にペニスで軽く突かれ、少年の唇が期待に戦慄く。
「…………ぁ、っ、く、――お、く……が……っあアァ!」
 欲望が口をついて出た瞬間、熱く膨張した熱の塊が少年の最奥を穿った。
 見開かれた目から、ぽろぽろと涙が落ちる。
「ほら、届いてるよ、奥」
「っ、ぁ……ッ」
 三人目の男のペニスの先端が、肉壁を探るように、少しずつ角度を変える。
 限界まで腰を押しつけられ、酷い圧迫感に少年は声も出せないまま喘いだ。
 反った喉に、男が噛みつく。ぴり、と僅かに痛む程度に歯をたてられた。
 瞬間、少年の意識は爆ぜた。
 真っ白な視界。
 背が弓なりにしなる。
 全身が大きく何度か痙攣したが、少年のペニスは硬度を保ったまま慎ましく揺れているだけだった。
「おい、ナカでイってんぞ」
 貫かれたまま強い快楽に震える少年の身体を見下ろしながら、仲間のひとりが興奮気味に口にした。
 ペニスを扱くその手の動きが速まっている。
「っ、才能ありすぎだろ……はー、っく、……出す、ぞッ」
「お、俺も……っ、おい、かけるぞ、そのエロい顔に射精するからなッ!」
 男たちが低く唸り、少年に向けて精液を吐き出した。
「んんっ、やぁ……」
 白濁した欲望が、顔や髪のあちこちにこびりつき、むせかえるような精の臭いに咳き込んだ。
 それを手で拭いたいと思うが、射精を伴わない絶頂の余韻は深く、身体に力が入らない。
 少年の後孔には、いまだ三人目の男の熱い猛りが埋められたままだ。
 二人分の精液がペニスでこねられ、粘膜とぶつかり、ぶちゅぶちゅといやらしい音を鳴らしていた。
 三人目の男の熱に浮かされたような視線が、少年の全身に刺さる。触れられてもいないのに、まるで愛撫をされている錯覚。ぞわぞわと皮膚が粟立ち、筋肉が収縮する。
 三人目の男が僅かに苦し気な表情を浮かべ、同時に少年の内部を穿つ速度が上がった。
 少年はもはや為すすべもなく、小さく喘ぐことしかできない。
「はァ……っ、いいよ、気持ちいい、奥気持ちいいよ、かわいいね、――っ、もう出す、よっ、一番奥にッ、出す……ッ!」
 粘液に濡れた肌同士が激しくぶつかり合う。
 三人目の男の腰が、ぐ、と強く押しつけられた。
 最奥の粘膜に、じわりと染みるような熱を僅かに感じる。
「っ、はァ……、っあ、ァああッ」
 体内に放たれた男の精を意識した瞬間、少年も幾度目かの射精をした。白濁はとうに枯れ果て、透明な液を僅かに滲ませた程度ではあったが。
 男が気怠げに大きく息を吐くと、少年の中からゆっくりとペニスが抜き去られた。男の形に広がった後孔の収縮に合わせて、三人分の精液が絞り出される。
 男はその場に膝を折り、少年に身体を預けるように覆いかぶさってきた。
 荒い息が耳にかかる。
 大きな手が、精液で汚れた少年の頬を拭った。
 その間、唇に何度もキスをされる。
 舌を絡まされ、鼻に抜けた甘い声が、少年から零れた。
 しばらくして、男がようやく少年から離れた頃、
「おい、誰か来る」
 個室の外から、焦りを滲ませた声がした。
「早く服着ろっ」
 グレーの髪の男が三人目の男に向かって叫ぶと、慌てて個室から飛び出していく。
 入れ替わりにピアスの男が顔を覗かせ、まだ便座の上で身じろぎもできずにいる少年を見やった。
「ね、君も気持ちよかっただろ? たくさんイってたし、これって和姦だよねェ? だからこのことは――」
 男が言っていることは、理解できた。しかし、言葉を紡ぐための口が動かない。快楽の火が燻ったままの身体は重怠く、いまだ少年の意思を受けつけてはくれなかった。
 結局、少年の返答を待たず、三人の男たちは少年をトイレの個室にひとり残したまま去っていった。三人目の男だけが、少年の方をちらと振り返ったが、声をかけてくるようなことはなかった。
 次第に男たちの足音が聞こえなくなる。人の気配は一向に感じられず、代わりに夏の虫だけがじりじりと鳴いていた。
 時間の経過と共に、徐々に動くようになってきた身体をなんとか起こす。備え付けのペーパーで、付着した汚れを大まかに拭っていく。その動作の中に、苦痛や嫌悪といったあらゆる感情は存在せず、少年はただ淡々と身辺を整えていった。
 スラックスと下着は、スクールバックの上に丁寧に畳んで置かれていた。それらを身に着け、バッグの中身を確認する。どうやら盗まれたものはないようだ。
 外見だけは何事もなかったかのように繕って、トイレの外へと出た。

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