属性:高校生

  • 掃き溜めに蜜

     六月の夜の闇が、じっとりと影を踏む。  午後八時、家路につく少年の足取りは酷く重い。ありもしないぬかるみに踏み入っている心地すらした。  予備校から遠ざかっていくにつれ、歩道に面した建物が減っていく…
  • 彼は月になりたかった

     山あいの集落は日暮れが早い。高い山が、地平線に沈むより先に太陽の光を遮ってしまうからだ。秋ともなれば、それはなおさら顕著になる。  狭い農道の周辺には、既に稲刈りを終えた田が広がる。刈田特有の、稲わ…
  • カミさまのいうとおり!第6話

     緑のにおいが実りのにおいに移り変わって久しい。木々の枝先で揺れる葉は、赤や黄色、茶色になり、涼やかな風が吹き抜ければ、たちまち飛ばされ、地面に落ち、積もっていく。あちらこちらの木の根元には、落葉の山…
  • カミさまのいうとおり!第5話

     空は高く、どこまでも青い。雲一つない、まさに日本晴れ。  そして私の目の前には、きらきらと輝く一面の黄金色。こうべを垂れているそれら一本一本は、ずっしりと重い実をつけた水稲だ。僅かに残暑の影を残した…
  • カミさまのいうとおり!第4話

     駆ける。  靴底でしっとりとした土を捉える。  髪が流れる。  夏独特の爽やかな風を肌に感じながらの疾走。  息があがる。  首筋を汗が伝っていく。  弾む心臓は、まるで自分の物ではないかのようだ。…
  • カミさまのいうとおり!第3話

     しっとりとした空気が肌を包み込む六月。窓から空を見上げれば、重厚感のある鈍色の雲が一面を覆っている。鼻をくすぐるのは、もうすぐ落ち始めるであろう雨の気配だ。梅雨入りはもう少し後になりそうだが、それで…
  • カミさまのいうとおり!第2話

     教室の壁に掛けられたカレンダーに、大きな数字の5が踊る。  高校に入学してからの最初の一ヶ月は、あっという間に過ぎ去ってしまった。入学式の際には満開だった桜も散り落ち、枝には既に瑞々しい若葉が繁って…
  • カミさまのいうとおり!第1話

     幼い頃、酪農の体験学習で高原に行ったことがある。  どこにあるなんという場所だったかは忘れてしまったけれど、そこには泊まり込みで自給自足生活を体験できるのがウリの小さなペンションがあった。  体験学…
  • すべてを、夏のせいにして。

       よく晴れた日中に部屋に篭もり、窓ガラスを通して、隣家の屋根の上、雲の少ない青い空をぼうっと眺めていると、世界からひとり置き去りにされたような孤独が感じられる。  けれどそれは、ひと月ほど前までの…
  • 熱帯夜に、答えを。

     異常な熱を感じていた。絡み付くような湿り気を孕んだこの空気に、だ。決して自分自身のせいではない。悠はそう自分に言い聞かせながら、勉強机に向かっている。  ベッドと本棚、そして勉強机だけが整然と設置さ…

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