小説
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よく晴れた日中に部屋に篭もり、窓ガラスを通して、隣家の屋根の上、雲の少ない青い空をぼうっと眺めていると、世界からひとり置き去りにされたような孤独が感じられる。 けれどそれは、ひと月ほど前までの…
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異常な熱を感じていた。絡み付くような湿り気を孕んだこの空気に、だ。決して自分自身のせいではない。悠はそう自分に言い聞かせながら、勉強机に向かっている。 ベッドと本棚、そして勉強机だけが整然と設置さ…
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いつも通り、穏やかな日曜の朝だった。 午前十時。ようやく起き出してきた悠は、のろのろと誰もいない食卓に座る。洗濯機の音が家の奥から聞こえてくる。食卓の窓から見えるガレージには、父親の車が見えた。 …
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天は無慈悲で、そして残酷だ。 そもそも天とは何であるのか。神か、はたまた世界の創造主であろうか。どちらにしてもそれはとても曖昧で不確かな存在である。 私は許せなかった。 そんな不確定な存在に、…
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西暦2315年、人類は地球を捨てた。 月面に幾多のコロニーを築き、そこへと移住したのだ。 それから更に300年経った今では、その理由を知る者は誰もいない。 歴史書によれば、放射能汚染説が有力と…
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学校から自宅までの道中にある河川敷。その草っぱらに腰をおろして、ぼんやりと川の流れを眺めて時間を潰すのが、高校生になってからの僕の日課だった。 そこで特別、何をするでもない。ただ、自宅で過ごす時間…
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普段より、街を行き交う人が多いような気がしていた。それは今日が三連休最終日だからか、あるいはクリスマスイブという特別なイベントによる賑わいなのか、それとも年末独特の背中を押されるような慌ただしさなの…
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閉店間際のスーパーの店内は、人も疎らだ。 蛍の光がゆったりと流れる中で、私は買い物カゴを手に足早に必要なものをそこへ入れていく。 いつも仕事帰りに、このスーパーに寄るのが私の日課だった。一人暮ら…
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降り注ぐ太陽の光は刺さるように鋭く眩しい。それによって熱された空気はなかなか冷めることがなく、指先を動かすことすら億劫な猛暑日が続いている。 エアコンで冷やされた部屋の中で過ごせるのならば、暑さも…
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アスファルトの表面に、ゆらりと陽炎がたっている。それは決して幻想などではなく、夏特有の強い日差しで道路が熱せられたことで起こった、紛れもない現実だ。 立ち並ぶ街路樹からは、蝉の鳴き声が聞こえる。 …