短編
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幼い頃、酪農の体験学習で高原に行ったことがある。 どこにあるなんという場所だったかは忘れてしまったけれど、そこには泊まり込みで自給自足生活を体験できるのがウリの小さなペンションがあった。 体験学…
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遮るもののない澄みきった蒼空を背景に、大輪の朝顔がいくつも咲いている。紫苑色や紅の花弁は、空の青に良く映えるものだ。陽光をさんさんと浴び、露に濡れた朝顔は、萌黄色のその蔓すらもキラキラと輝いている。…
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窓ガラスの向こうに広がる青い空を行く鳥たちは、どこまでも自由だ。なにかに縛られるわけでもなく、行く手を阻むものもない。 窓から柔らかな光が差し込む。窓際に置かれた和彦の机上は、そこだけが春であるか…
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まばゆい銀色で覆われた半球状の神世界ドォムは、地上から眺め、想像していたよりも、遥かに美しい場所であった。 見る者に圧倒的美を感じさせる要因の最もたるは、この場所に直線が存在しないことだろう。通路…
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それは、幸福な幻想だった。僅かに開いたドアのすき間からこぼれ出した、愛しい紫煙が我が身を包む、身勝手で愚かなまぼろし。 たたん、たたん。錆びた金属製の手すりを雨粒が叩く。打ちっぱなしコンクリートの…
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ただ、そばにいて欲しいと思った。海田の胸にそんな想いが湧いたのは、大学の入学式当日。キャンパス内でビラ配りをしていた真木に、海田は思わず声をかけていた。 愛情に飢えていたわけではない。両親にはそれ…
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この場所には、いつだって陽が当たらない。真木が訪れる度、ここは四階建てコンクリート造りの校舎が作り出す、長い影で覆い隠されていた。 歩道の脇には芝生が植えられていて、五月ということで花壇にはちらほ…
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天は無慈悲で、そして残酷だ。 そもそも天とは何であるのか。神か、はたまた世界の創造主であろうか。どちらにしてもそれはとても曖昧で不確かな存在である。 私は許せなかった。 そんな不確定な存在に、…
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学校から自宅までの道中にある河川敷。その草っぱらに腰をおろして、ぼんやりと川の流れを眺めて時間を潰すのが、高校生になってからの僕の日課だった。 そこで特別、何をするでもない。ただ、自宅で過ごす時間…
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普段より、街を行き交う人が多いような気がしていた。それは今日が三連休最終日だからか、あるいはクリスマスイブという特別なイベントによる賑わいなのか、それとも年末独特の背中を押されるような慌ただしさなの…