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  • 鼻をかむ

     ひどい頭痛だった。一週間ほど前から、右側頭部が鈍く痛むのだ。同時に目の奥をぐじぐじとほじくられるような嫌な感じもしていた。それも右目だけだ。  体の不調は、まず喉の違和感から始まった。次いで鼻水が出…
  • 仕事

     錆びついた鉄扉の鍵穴に、同じく錆びつき今にも折れそうな鍵を差し込み、素早く回した。かちゃりと軽い音がし、作業服の男はノブを回して手前へ引く。 「うわっ」  開いた扉と一緒に、真っ赤な塊がごろりと転が…
  • 織女星の涙

     七月七日、七夕の夜。 空に眩く輝く天の川に祈れば、願いが叶うという。  幾多の星が帯状に並び、そうして成された大河を眼前に望みながら、織姫は大きく溜息を吐いた。  織機の椅子に腰掛け、細く白い足をぶ…
  • にわかぱんだ好きに興味ありません。(3)

     院生が主に利用するのは、校舎の南棟と呼ばれる部分。  そこはほとんどの教室が研究室で占められているので、南棟よりも研究室棟という呼称のほうが実際はよく使われる。  極稀に行われる院生用の講義は、校舎…
  • アシナガ

    重苦しい鉛色の空が、低く唸る。  湿り気を孕んだ空気は既に飽和状態。雨が降り出すのも時間の問題だろう。  窓の外をちらと見やりながら、そんなことをぼんやりと考える。  天候のせいか気分はぐずぐずと燻り、午後の仕事を仕上げる気力はとうに失せていた。