掌編

  • そしてまた君は呟く〈4〉

    《彼だけに見える愛しき景色》  くすくすと、膝をくすぐられるような感触。足元に視線を落とす。長く細い草の群が、私をからかうように、膝頭に触れては離れる。肌を撫でるのは、涼やかな風。私の鼻先を、頬を、唇…
  • そしてまた君は呟く〈3〉

      《淫らな妖精は甘い蜜を纏う》  もし一面に広がるこの色が、一般的に云われる『肌色』だとすれば、私たちの肌とはなんと淫猥な色をしているのだろうか。  両足が踝まで、ふぬり、と埋まる。柔らかく、そして…
  • そしてまた君は呟く〈0―2〉

    《電脳の空と海に沈む》  眼前に広がる鮮やかで透んだ青。その中へ飛び込み、奥へ、奥へと進んでいく。肌に感じるのは流れる水の冷たさ。私は水の中を飛んだ。手を動かさずとも、足をばたつかせずとも『奥へ行きた…
  • そしてまた君は呟く〈2〉

    《可憐な白い花の愛する箱庭》  鈍色の空から大粒の雨が無数に落ちていた。それらひとつひとつが、大地に触れ、また草木に触れ、そこから慎ましやかで優しげな生命の香りを引き出し、辺りに充満させている。  こ…
  • そしてまた君は呟く〈1〉

    《玻璃の樹木たる少女は微笑む》  闇の中心に、重厚な木製扉が据え付けられていた。闇と扉とを繋いでいるのは、扉の左端にあるふたつの蝶番だ。そしてそれは、銀色をした細身の針で留められていた。針の後端には、…
  • そしてまた君は呟く〈0〉

    《人間じみた電脳の呟き》  視界一面に広がる無機質なスカイブルーが目に刺さる。ヘッドマウントPCに搭載された有機ELディスプレイの発色は、液晶より格段に良く、美しくもあるが、しかしながら決して目に優し…
  • 星空の彼方の母なる星よ

     西暦2315年、人類は地球を捨てた。  月面に幾多のコロニーを築き、そこへと移住したのだ。  それから更に300年経った今では、その理由を知る者は誰もいない。  歴史書によれば、放射能汚染説が有力と…
  • 地獄にて

     巨大な釜は、大地から噴出した業火によって底を炙られ、その中では溢れんばかりに湯が煮えたっている。そしてその湯には、あろうことか、無数の人間が浸かっていた。  ある者は泣き喚き、またある者は釜から出よ…
  • 仏像ガール!!

     彼女とは、インターネット掲示板で出会った。  その掲示板の名前は『極楽浄土』という。仏像好きや仏教マニアが集まり、議論を交わしたり、時には同志を募集したりする場所だ。私はこの掲示板――仲間内では『楽…
  • 遠出

     ふと、どこかへ旅に出ようかという気になった。一週間ほど肌寒い日が続いたのが、今日になって突然暖かな陽気になったものだから、つい窓を開けて庭を覗いたのがいけなかった。  冬独特の軽く乾いた鋭利な感触に…