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薄暗くなってきた冬の街中を、私は足早に歩いていた。 買い物をしようと思い立って家を出たのは昼すぎだったというのに、その買い物もろくに終わらせられないうちにこんな時間になってしまうなんて、思いもよら…
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まばゆい銀色で覆われた半球状の神世界ドォムは、地上から眺め、想像していたよりも、遥かに美しい場所であった。 見る者に圧倒的美を感じさせる要因の最もたるは、この場所に直線が存在しないことだろう。通路…
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ただ、そばにいて欲しいと思った。海田の胸にそんな想いが湧いたのは、大学の入学式当日。キャンパス内でビラ配りをしていた真木に、海田は思わず声をかけていた。 愛情に飢えていたわけではない。両親にはそれ…
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天は無慈悲で、そして残酷だ。 そもそも天とは何であるのか。神か、はたまた世界の創造主であろうか。どちらにしてもそれはとても曖昧で不確かな存在である。 私は許せなかった。 そんな不確定な存在に、…
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普段より、街を行き交う人が多いような気がしていた。それは今日が三連休最終日だからか、あるいはクリスマスイブという特別なイベントによる賑わいなのか、それとも年末独特の背中を押されるような慌ただしさなの…
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十二月二十三日、二学期の終業式を前にしたこの日は、祝日で学校が休みだった。私はたまたま欲しいものがあって、ひとりで近所にある大型ショッピングモールを訪れていた。店内には、軽快なジングルベルが流れてい…
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本が好きだ。静寂が好きだ。ページを捲る微かな音が静寂に融けていく瞬間が、堪らなく好きだ。 澄香は、読書をする時間というもの自体を愛していた。幼い頃から、彼女はそういう性質だった。他のこどもと遊ぶよ…
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今年の夏は、異様に暑い。雨はもうひと月ほど降っておらず、地面はどこもからからに乾いていた。それなのに空気だけはねっとりと肌に張りつくような湿り気を帯びていて、不快感を煽る。テレビでも、この気候を連日…
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懐かしい思い出は、今ではもう記憶の奥底でセピア色に染まっている。 『ボールを投げるの、すごく上手だね。純哉君は』 『ほんとう?』 『本当だよ。野球選手になれるんじゃないかな』 『じゃあ、ぼく、お…
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同性結婚が、ついにこの国でも法で認められることとなった。 世界の風潮を鑑み、さらに国内の人権団体からの度重なる抗議運動も影響してのことだと、法案が可決される前後は、どのメディアも法案成立までのいき…