連作
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そしてまた君は呟く〈0〉
《人間じみた電脳の呟き》 視界一面に広がる無機質なスカイブルーが目に刺さる。ヘッドマウントPCに搭載された有機ELディスプレイの発色は、液晶より格段に良く、美しくもあるが、しかしながら決して目に優し…
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仕事
錆びついた鉄扉の鍵穴に、同じく錆びつき今にも折れそうな鍵を差し込み、素早く回した。かちゃりと軽い音がし、作業服の男はノブを回して手前へ引く。 「うわっ」 開いた扉と一緒に、真っ赤な塊がごろりと転が…
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ハキリ
古い友人が失踪したのは、もう三年も前のことだ。事件性のない家出としてまともに捜査もされず、彼はそのまま消失した。 彼がいなくなったことで、世界の何が変わるわけでもない。それは至極当然の流れだ。世界…
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アシナガ
重苦しい鉛色の空が、低く唸る。 湿り気を孕んだ空気は既に飽和状態。雨が降り出すのも時間の問題だろう。 窓の外をちらと見やりながら、そんなことをぼんやりと考える。 天候のせいか気分はぐずぐずと燻り、午後の仕事を仕上げる気力はとうに失せていた。
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