舞台:現代
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降り注ぐ太陽の光は刺さるように鋭く眩しい。それによって熱された空気はなかなか冷めることがなく、指先を動かすことすら億劫な猛暑日が続いている。 エアコンで冷やされた部屋の中で過ごせるのならば、暑さも…
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制服の上に羽織ったコートのポケットの中で、指先に触れるかさりと乾いた感触が、鋭い刃先のように胸を刺す。けれど、それでもそこから指を離せないのは、彼女が痛みごと、この現実を受け入れようとしているからだ…
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本が好きだ。静寂が好きだ。ページを捲る微かな音が静寂に融けていく瞬間が、堪らなく好きだ。 澄香は、読書をする時間というもの自体を愛していた。幼い頃から、彼女はそういう性質だった。他のこどもと遊ぶよ…
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普段であれば消毒液のにおいで満たされている清潔感のある室内に、不釣り合いなバターの香りが漂う。濃厚なそれの中に、華やかなバニラの芳香を感じとれば、にわかに目眩が誘われた。 「注意力散漫。これで何回目…
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同性結婚が、ついにこの国でも法で認められることとなった。 世界の風潮を鑑み、さらに国内の人権団体からの度重なる抗議運動も影響してのことだと、法案が可決される前後は、どのメディアも法案成立までのいき…
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昨日の明け方から、雨は降りだした。今日の日暮れになっても、まだ止んではいなかったが、夜が更けた今でも、それはどうやら続いているらしい。 「外はすごい霧だ」 玄関に入るなり、彼は濡れたその広い肩を手…
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純白のシーツの上に桜の花弁が散りばめられていた。ガラス越しに差し込む陽射しが暖かく、また、僅かに開けた窓から吹き込む穏やかな南風が、遠くから柔らかい新緑の香りを伴って、私の頬を擽る。満開の桜が立ち並…
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夢を見た。私はその夢の中でだけは、私という人間ではなかった。本来の私の姿形ではなく、私ではない別の男の皮を被っていた。私ではないこの男は、しかし夢の中に於いては、確かに私であった。 酷くややこしい…
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ふと、どこかへ旅に出ようかという気になった。一週間ほど肌寒い日が続いたのが、今日になって突然暖かな陽気になったものだから、つい窓を開けて庭を覗いたのがいけなかった。 冬独特の軽く乾いた鋭利な感触に…
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私は、もうずっと長い間、旅に出たかった。どこの街へという明確な目的地があるわけではない。ただ、輝くような青い海と空を見たいと思っていた。 小説家として生計をたてはじめてから十五年の間暮らしているこ…