要素:百合
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薄暗くなってきた冬の街中を、私は足早に歩いていた。 買い物をしようと思い立って家を出たのは昼すぎだったというのに、その買い物もろくに終わらせられないうちにこんな時間になってしまうなんて、思いもよら…
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大きなはめ殺しの窓の向こうでは、闇を彩る光の花が咲いている。 純白のテーブルクロスが目に眩しい。その上に整然と並べられた料理を前に、フォークとナイフを握りつつも、落ち着かない様子で彼女は視線を泳が…
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鏡台の前に座わる私の長い黒髪に、背後に立つ彼女が優しい手つきで櫛を通す。 何かの願掛けであるとかそんな大層な思い入れがあるはずもなく、ただ惰性で腰の辺りまで伸びてしまっただらしのない私の髪は、普段…
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灼けたアスファルトに恵みの雨が落ち、夏独特の匂いが開け放したままの窓から流れ込んでくる。 夏の香はすぐに部屋いっぱいに満ち、次第に肌を包み込んでいく。 生温い夏の気配から逃げるように、私はベッド…
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十二月二十三日、二学期の終業式を前にしたこの日は、祝日で学校が休みだった。私はたまたま欲しいものがあって、ひとりで近所にある大型ショッピングモールを訪れていた。店内には、軽快なジングルベルが流れてい…
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本が好きだ。静寂が好きだ。ページを捲る微かな音が静寂に融けていく瞬間が、堪らなく好きだ。 澄香は、読書をする時間というもの自体を愛していた。幼い頃から、彼女はそういう性質だった。他のこどもと遊ぶよ…