特殊嗜好
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それは、決して不快とは言い難い苛立ち。開かない窓越しに、積りゆく新雪を眺めるしかない幼児の心境に似ていたかもしれない。 「何で速水先生は描かねえの」 机上に広げられたスケッチブックは、隅だけが適当…
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僕は、嘘が嫌いだ。嘘をつけばかならずどこかで誰かを傷付ける。だから僕は、自分自身にすら嘘を付かないよう、正直に生きている。 「目玉が好きなんだ」 木箸の先端を、皿の上に横たわる頭と骨だけになった鯵…
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昨日の明け方から、雨は降りだした。今日の日暮れになっても、まだ止んではいなかったが、夜が更けた今でも、それはどうやら続いているらしい。 「外はすごい霧だ」 玄関に入るなり、彼は濡れたその広い肩を手…
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純白のシーツの上に桜の花弁が散りばめられていた。ガラス越しに差し込む陽射しが暖かく、また、僅かに開けた窓から吹き込む穏やかな南風が、遠くから柔らかい新緑の香りを伴って、私の頬を擽る。満開の桜が立ち並…
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これは、自慰ではない。 葉山好男は、硬く屹立した自身の性器を右手のひらで包み、上下動でそこに刺激を加えながら、徐々に芯を失い痺れていく頭で、そんなことを考えた。 傍目からは自慰としか見えないこの…
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夢を見た。私はその夢の中でだけは、私という人間ではなかった。本来の私の姿形ではなく、私ではない別の男の皮を被っていた。私ではないこの男は、しかし夢の中に於いては、確かに私であった。 酷くややこしい…