季節小説
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駅前に存在したのは、確かに日常の風景だった。 地下鉄を入谷で降り、地上に出たのは夕方五時。駅周辺を行き交う人々は、足早に各々の目的地へと急ぐ。 それらを尻目に、住宅の多いエリアを十分ほど歩けば、…
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普段より、街を行き交う人が多いような気がしていた。それは今日が三連休最終日だからか、あるいはクリスマスイブという特別なイベントによる賑わいなのか、それとも年末独特の背中を押されるような慌ただしさなの…
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今年の夏、妻と離婚した。役所に届けを出したのは、丁度結婚十年目の記念日のことだった。 原因は明らかに僕にあった。毎日、毎日、仕事のことだけを考え、家庭のことなど省みたこともなかったのだ。ただ、妻と…
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しんと冷えた夜の空気が、開け放った窓から流れ込み、私の体を包んだ。肺の奥まで凍えるような外気は、ぬるま湯に浸かったようにぼんやりと浮かれ現実感を失っていた私の脳を、すぐに覚醒させてくれた。覚醒すれば…
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七月七日、七夕の夜。 空に眩く輝く天の川に祈れば、願いが叶うという。 幾多の星が帯状に並び、そうして成された大河を眼前に望みながら、織姫は大きく溜息を吐いた。 織機の椅子に腰掛け、細く白い足をぶ…