15000字~30000字

  • カミさまのいうとおり!第6話

     緑のにおいが実りのにおいに移り変わって久しい。木々の枝先で揺れる葉は、赤や黄色、茶色になり、涼やかな風が吹き抜ければ、たちまち飛ばされ、地面に落ち、積もっていく。あちらこちらの木の根元には、落葉の山…
  • カミさまのいうとおり!第5話

     空は高く、どこまでも青い。雲一つない、まさに日本晴れ。  そして私の目の前には、きらきらと輝く一面の黄金色。こうべを垂れているそれら一本一本は、ずっしりと重い実をつけた水稲だ。僅かに残暑の影を残した…
  • カミさまのいうとおり!第4話

     駆ける。  靴底でしっとりとした土を捉える。  髪が流れる。  夏独特の爽やかな風を肌に感じながらの疾走。  息があがる。  首筋を汗が伝っていく。  弾む心臓は、まるで自分の物ではないかのようだ。…
  • カミさまのいうとおり!第3話

     しっとりとした空気が肌を包み込む六月。窓から空を見上げれば、重厚感のある鈍色の雲が一面を覆っている。鼻をくすぐるのは、もうすぐ落ち始めるであろう雨の気配だ。梅雨入りはもう少し後になりそうだが、それで…
  • 雨の降る夜に、恋は

     それは、幸福な幻想だった。僅かに開いたドアのすき間からこぼれ出した、愛しい紫煙が我が身を包む、身勝手で愚かなまぼろし。  たたん、たたん。錆びた金属製の手すりを雨粒が叩く。打ちっぱなしコンクリートの…
  • 終わる夏と終わらないもの

     降り注ぐ太陽の光は刺さるように鋭く眩しい。それによって熱された空気はなかなか冷めることがなく、指先を動かすことすら億劫な猛暑日が続いている。  エアコンで冷やされた部屋の中で過ごせるのならば、暑さも…
  • 冬を愛した人

     アスファルトの表面に、ゆらりと陽炎がたっている。それは決して幻想などではなく、夏特有の強い日差しで道路が熱せられたことで起こった、紛れもない現実だ。  立ち並ぶ街路樹からは、蝉の鳴き声が聞こえる。 …
  • 或る少年の追想―彼が如何にバランを愛したか―

     これは、自慰ではない。  葉山好男は、硬く屹立した自身の性器を右手のひらで包み、上下動でそこに刺激を加えながら、徐々に芯を失い痺れていく頭で、そんなことを考えた。  傍目からは自慰としか見えないこの…

サイトトップ > 15000字~30000字