属性:幼なじみ

  • 罪悪と懐古の底で

     とっくに廃校になったと聞く小学校のそばに、その店はあった。建物全体としては、民家のようでいて、しかし一階部分はガラスの引き戸を左右に開け放たれ、ごちゃりと物が並んだ棚が、外から丸見えになっている。 …
  • 変わらずに、変わりゆく

     つけっぱなしのテレビで流れているのは、年末の忙しない商店街の様子。しかし、それを伝えるレポーターの声はほとんど聞こえてこない。限界までボリュームを絞っているためだ。  そもそもこの部屋で、まともにテ…
  • 彼は月になりたかった

     山あいの集落は日暮れが早い。高い山が、地平線に沈むより先に太陽の光を遮ってしまうからだ。秋ともなれば、それはなおさら顕著になる。  狭い農道の周辺には、既に稲刈りを終えた田が広がる。刈田特有の、稲わ…
  • 不器用な君と恋していく方法

     鳥羽千波ちなみの記憶は、幼馴染みである伊勢嶋史樹ふみきの花綻ぶような笑顔で始まっている。 『ちなちゃん、これ、もらってくれる?』  まだ小学生にもならなかった頃、史樹から突然差し出されたのは、ジュズ…
  • すべてを、夏のせいにして。

       よく晴れた日中に部屋に篭もり、窓ガラスを通して、隣家の屋根の上、雲の少ない青い空をぼうっと眺めていると、世界からひとり置き去りにされたような孤独が感じられる。  けれどそれは、ひと月ほど前までの…
  • 熱帯夜に、答えを。

     異常な熱を感じていた。絡み付くような湿り気を孕んだこの空気に、だ。決して自分自身のせいではない。悠はそう自分に言い聞かせながら、勉強机に向かっている。  ベッドと本棚、そして勉強机だけが整然と設置さ…
  • 何の変哲もない日曜日、食卓にて。

     いつも通り、穏やかな日曜の朝だった。  午前十時。ようやく起き出してきた悠は、のろのろと誰もいない食卓に座る。洗濯機の音が家の奥から聞こえてくる。食卓の窓から見えるガレージには、父親の車が見えた。 …

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