悪いのはだぁれ?

 濡れたTシャツの白い布地が肌に張りつき、うっすらと皮膚の色が透けて見えた。女のような膨らみなどない、まっ平らな胸。しかしそこに、二つの尖りがはっきりと存在を主張している。

「凪、も、しつこい……って!」

「仕方ないじゃないか。…お前が悪いんだよ、楓」

 そう、悪いのは楓だ。凪は内心自分にそういい聞かせる。

 シャワーとカランの切り替えを忘れた楓が悪いのだ。うっかり頭から水を被った彼のせいなのだ。こんな時に限って、少しサイズが大きめの、凪の白Tシャツを勝手に身に付けていた楓が、何もかもいけない。

 だから、これは不可抗力だ。Tシャツの上からうっすら見てとれる、凪によってすっかり大きく育てられてしまった形のよい楓の乳首に、我を忘れるほど興奮してしまったとしても。

 衝動のままに楓を脱衣所の床に押し倒した凪は、布地の上から透ける両の突起を指の腹で転がすようにひたすらに刺激した。

 時折ぷっくりと膨らんだ乳輪を、弧を描く丁寧さでなぞると、楓は唇を噛んで、僅かに背をそらせた。

 口では嫌がりながらも、素直に反応を示す体に、思わず凪の口許が緩む。

 右手を止め、代わりにそこに口を近付けていく。これから何をされるのか悟ったらしい楓が、

「凪、凪ぃ……! 服、脱ぎたい……、ね、脱がせて、おねがい……」

 一際甘い声でねだってきた。腰を浮かし、下半身を楓に擦りつけてくる。そこはすっかり硬く、熱を孕んでいた。だが、それは凪とて同じだ。風呂場から全身ずぶ濡れで出てきた恋人の姿を目にした瞬間から、痛いほどに勃起している。

「駄目だよ。……このまま、するからね」

「うそ、凪――……ッぁ!」

 楓の言葉を遮るように、凪は目の前の突起を口に含んだ。楓の体が小さく跳ねる。

 布越しのそれを、まずは舌で弾く。硬くなった先端が、窮屈そうに震えた。

 普段とは違う感触の、しかし愛しい硬さをひとしきり堪能したあと、舌の中心で乳首全体を押し潰すようにしながら、舌先で周辺を舐めていく。

「あ、ァ――、んっ、な、ぎぃ……それ、や……っ!」

 そうやって全体を唾液でべとべとに汚してから、一気に吸う。水分をたっぷりと含んだ布地が、じゅるじゅるといやらしい音をたてた。

 楓の頬が一瞬で羞恥に染まる。両手で口を押さえ、いやいやと子供のように首を振っている。そういった彼のしぐさを可愛らしいと思いつつ、凪は一切気付いていないふうを装った。

 さらに責めは続く。今度はじゅ、じゅ、と小刻みにリズムをつけて吸いつく。空いた乳首も指でこねてやる。

 同時に、凪は衣服を身につけたままの自身の下半身を、楓の下半身に擦りつけた。

 楓の熱い体内に包まれるのとも、自分の手で刺激するのとも違う、布越しの熱の摩擦は、異様に凪の興奮を煽った。普段と違う場所、普段と違う服装、普段と違う状況――何もかもが、脳内で快楽の種となり、次々と芽吹き、開花し、どろりと垂れた甘い蜜が、凪の感覚を酷く鋭敏なものへと変化させた。そうして限界まで高められた性感によって、凪は絶頂へと導かれていく。

「凪、なぎ、ぁ、こわいっ、こわいよ……っ、ぁあ、あ、ン、や――っ!」

 楓が一際高い声をあげた。彼の限界も近い。凪は意図して下半身を強く押しつけ、摩擦速度を上げた。頭の芯がぼうっと痺れる。

「なぎ、ぁ、なぎ、いく、も、汚しちゃ……ッ!」

 ずっと吸い続けていたそこを、凪は甘く噛んだ。僅かに強く、しかし愛撫に留まる優しさで。

 楓の腰が跳ねる。凪も込み上げる射精感に身を強ばらせた。じっとりと股間に広がる、温かくぬめった感触。

 粗相をした子供のような罪悪感と、身を苛む劣情を昇華した解放感。そして自身に組み敷かれたまま、快楽に小さく体を痙攣させる焦点の定まらぬ恋人の姿に堪らぬ愛しさを覚える。

「楓……楓、かわいい楓……、好きだよ」

 微かに震える睫毛の横に、軽いキスを落として凪は囁いた。

「……汚しちゃった」

 楓がぽつりと漏らす。

「大丈夫、綺麗に体を洗ってあげるから」

「洗濯もして」

「わかってるよ」

「……全部、おれが悪い?」

「ううん、悪いのは、僕だね。ごめんね、楓」

「……それなら、いい」

 頬に数度、キス。それから唇に。

 隣の浴室で、バスタブから湯が流れ落ちる音が聞こえた。

(了)

       
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