幻想

  • そしてまた君は呟く〈9〉

    《星は光と光の狭間で輝く》  目映い。何百何千といった細かく鋭い光の筋が瞳孔を射抜き、脳を灼く。反射的に腕で顔を覆う。同時に閉じられた瞼は、しかし私の視界に闇をもたらしはしない。  私は、両腕をまっす…
  • そしてまた君は呟く〈8〉

    《昏き森は甘い死の香りで誘う》  この森は、光を喰い、闇を吐いて生きている。  頭上を覆う幾重もの暗緑。にもかかわらず、葉擦れは一切ない。沈黙の森の内にある唯一の音は、重く冷たい金属音。私の両腕を拘束…
  • そしてまた君は呟く〈7〉

    《赤で繋がれた光と闇の主従》  天球が、黄昏の色を抱いている。天に向かって高く聳えるは、四方が階段状になった台座。夜闇の色をしたその頂きには、月の輝きを放つ玉座が据えられていた。  その椅子に人の姿は…
  • そしてまた君は呟く〈6〉

    《モノクロの遊戯に興じる黄金の天秤》  暖かな硬さだ。足面につぶさに感じられるのは。  硬質なそれを一面埋め尽くすのは、正方形の白、或いは無限に続く黒い格子。剥き出しの足指で白と黒の境界に触れてみるが…
  • そしてまた君は呟く〈5〉

    《白と黒の世界でペンは踊る》  木製の軸に差し込まれた、先端ほど幅細く尖り、やや湾曲した金属板。その中心に小さく楕円の穴があけられており、そこから金属の先端部分を真半分に割るように、切れ目が走っている…
  • そしてまた君は呟く〈4〉

    《彼だけに見える愛しき景色》  くすくすと、膝をくすぐられるような感触。足元に視線を落とす。長く細い草の群が、私をからかうように、膝頭に触れては離れる。肌を撫でるのは、涼やかな風。私の鼻先を、頬を、唇…
  • そしてまた君は呟く〈3〉

      《淫らな妖精は甘い蜜を纏う》  もし一面に広がるこの色が、一般的に云われる『肌色』だとすれば、私たちの肌とはなんと淫猥な色をしているのだろうか。  両足が踝まで、ふぬり、と埋まる。柔らかく、そして…
  • そしてまた君は呟く〈0―2〉

    《電脳の空と海に沈む》  眼前に広がる鮮やかで透んだ青。その中へ飛び込み、奥へ、奥へと進んでいく。肌に感じるのは流れる水の冷たさ。私は水の中を飛んだ。手を動かさずとも、足をばたつかせずとも『奥へ行きた…
  • そしてまた君は呟く〈2〉

    《可憐な白い花の愛する箱庭》  鈍色の空から大粒の雨が無数に落ちていた。それらひとつひとつが、大地に触れ、また草木に触れ、そこから慎ましやかで優しげな生命の香りを引き出し、辺りに充満させている。  こ…
  • そしてまた君は呟く〈1〉

    《玻璃の樹木たる少女は微笑む》  闇の中心に、重厚な木製扉が据え付けられていた。闇と扉とを繋いでいるのは、扉の左端にあるふたつの蝶番だ。そしてそれは、銀色をした細身の針で留められていた。針の後端には、…

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